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「重ね合わせ」「量子もつれ」「グローバーのアルゴリズム」など、量子コンピュータに関連する量子の基本的なふるまいやアルゴリズムをアートの視点で見てみたらどうなるでしょうか。量子に初めて触れた人でも、見方を変えることで、その不思議な世界を楽しむことができるかもしれません。そんな体験ができる60分です。

DATE | 2025.3.13 TUE. | 12:00-13:00 JST

高村 剛(空気株式会社)×東京都立 立川高等学校の学生のみなさん×

的場浩介、田中 咲、勝部瞭太、白澤貴司(株式会社日立製作所 研究開発グループ)

イントロダクション

的場:量子の原理やふるまいをアート作品として可視化し、体験することで、量子を知らない人に興味を持ってもらうこと。また量子コンピュータの研究開発を盛り上げていくことを目的に「ODDS Q/C」を制作しました。ここでは、体験を通じて得た気づきを高校生のおふたり、量子研究者、作品制作者とともに議論します。

 

アート作品の体験とインタラクション

 

高校生のふたりが、量子のふるまいを可視化した「ODDS Q/C」を体験。反時計回りに、次は時計回りにルーレットを回し、さらに制作者に促されてボタンを押してみます。その感想を聞きました。

 

高校生:最初はルーレットの当たりの確率が低いのに、操作を繰り返すことで確率が上がっていきました。自分の行動によって確率が変化していったことが面白いです。

 

高校生:確率を増やしていくための「押す」という動きとそのデジタルのインターフェースに、近未来を感じました。

 

 

そもそも量子コンピュータとは何なのか?

 

改めて量子コンピュータとは何か、普通のコンピュータとどう違うのか解説します。

 

田中:量子コンピュータとは量子力学の性質を計算に利用するコンピュータのことです。量子力学は、電子・原子といった小さいものの挙動を確率的に予測する学問です。量子コンピュータは、電子・原子の動きをシミュレーションすることができ、コンピュータとして汎用的な機能をもつため、特に確率的な要素を制御することができます。またアルゴリズムの処理の違いとして、古典コンピュータに比べて「重ね合わせ」という性質により、速く処理することが可能です。

的場:「ODDS Q/C」はルーレットの円盤を通じてアルゴリズムつまり確率が変わっていくことを表現した作品です。最初が古典コンピュータの動き。次のモードが量子演算によって総当たりでなく、並列で処理していき、押すたびに確率が変わっていくことを表現しています。ピンボールなども考ましたが、ルーレットが最もシンプルかつダイナミックに表現できると判断しました。

 

高村:ルーレットにおいて、確率を変えるという日常では馴染みのない、とても変なことが起きているわけです。それを視覚的にわかりやすく、また体感できるように「押す」という動作を加えて、操作によって変化が実感できる作品に落とし込んでいきました。

 

 

触れることで得られる新たな理解

 

説明を受けた後、改めて感想を伺います。

 

高校生:動作をしたことによって、量子を実感として理解できるようになりました。

 

高校生:ルーレットを押すという行動は普段あり得ず、なぜこれを押すんだろうという、そのわからなさも含めて面白いと思いました。また、なぜボールが1つなのだろうかと。ボールの数が増えれば確率は上がるのではないかと思いました。

田中:押すという操作自体が、量子操作に対応させたものです。量子コンピュータは一度測定結果が出るとリフレッシュさせないといけないという性質があります。なので、ボールは1つという対応になるのです。

高村:高校生の方の話を聞いて、押すという動作が、ルーレットを回すという動作とは全然違うということが伝わったと感じました。

高校生:座学では想像するしか自分に中に落とし込むがことができないが、実際に触れることでイメージしやすく、記憶に残りやすいと思いました。

 

 

サイエンスとアートの融合がもたらす可能性

的場:科学やサイエンスをアートの形で表現していく活動をサイエンスコミュニケーションと言います。これからサイエンスコミュニケーションに期待することをそれぞれ伺います。

 

勝部:研究成果は論文やプレスリリースで発表されますが、一般の人にはなかなか伝わりにくいものです。アートはその橋渡しとして重要な役割を果たすと思います。

 

高校生:最初は科学と美術にどのような関係があるのだろうと思っていましたが、体験して、知識のない人でもわかりやすく、理解しやすい、アートの視点が大事だと感じました。発表時もデザインを大事にすることで伝わりやすいと思いました。

高村:言葉を超えて、わかりやすいと思いました。小学生はじめ、もっと小さい子でも伝わるのではないでしょうか。

田中:まず、普段、表に出ることのない研究がみなさんに見てもらえたことが嬉しい。量子力学はわからないと常に言われます。体験して、親しみを感じてもらえるものをつくってもらえたことがさらに嬉しい。なぜ自分たちの仕事がわかりにくいのか、制作過程やディスカッションでも教えてもらえました。量子力学を改めて考える機会になりました。

的場:科学が問いを立てて実験していくように、「なぜボールが1つなんだろう」とアート作品にも問いを生む力があると感じました。それによって、新しい気づきを生んだり、知的探求を促す可能性があるのではないでしょうか。

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高村 剛|Tsuyoshi Takamura

テクニカルディレクター

熊本県生まれ。九州芸術工科大学を卒業後、2003年よりKOO-KI ` に参加。 モーショングラフィックや3DCG映像の演出・制作を経て、インタラクティブコンテンツの企画・制作を担当。エンターテインメントと知育の融合を掲げ、映像制作で培ったノウハウを生かした体験展示の制作を手がける。

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的場浩介|Kosuke Matoba

日立製作所 研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 デザインセンタ ストラテジックデザイン部 `

デザイナー 

2009年日立製作所入社。鉄道車輛や計測・分析装置のプロダクトデザイン、UI/UXデザインを担当し、2016年より将来の社会課題を探索するビジョンデザインに従事。人視点の未来洞察「経済エコシステムのきざし」、家電・ロボットのビジョンシナリオ、神奈川県三浦半島でのフューチャー・リビング・ラボの研究を担当した。

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田中 咲|Saki Tanaka

日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ 研究員

2015年日立製作所入社。次世代コンピューティングイジングコンピュータのアプリケーション開発および車載向けレーダ信号処理の開発に従事。2019年よりシリコン量子コンピュータプロジェクト ​` に参加。配線が限定される場合のユニバーサル量子計算の実施方法の提案、シャトリングを用いた一方向量子計算方法提案などの研究を担当してきた。

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勝部瞭太|Ryota Katsube

日立製作所 研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 サービスシステムイノベーションセンタ DXエンジニアリング研究部 企画員 

2023年日立製作所入社。入社時からシリコン量子コンピュータプロジェクト ​` に参加。量子コンピュータで発生するノイズの1つであるクロストークを緩和するシステムの研究開発を担当している。

量子芸術祭 Quantum Art Festival​

主催:量子芸術祭実行委員会 

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