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Q-STAR(一般社団法人量子技術による新産業創出協議会)参加企業のメンバーは、量子コンピュータのユースケースを創造するため、アートとジャーナリズムを複合させた思考実験に取り組んでいます。同プロジェクトのディレクター陣が中間発表を行います。

SF漫画は量子の未来にインスピレーションを与えるか

山内康裕(一般社団法人MANGA総合研究所 副所長/一般社団法人漫画ナイト代表理事)×

青木竜太(芸術監督・社会彫刻家)×森 旭彦(サイエンスライター)

DATE | 2025.3.12 WED. | 18:00–19:00 JST

量子芸術祭とコラボレーションする「Q-STAR(一般社団法人量子技術による新産業創出協議会)」は、量子コンピュータのユースケース創造に、アートとジャーナリズムを複合した思考実験を用いた取り組みを進めています。このプロジェクトのディレクター、サイエンスライター・森 旭彦と、アート作品の制作を担当する社会彫刻家・青木竜太とが、中間発表を行いました。このウェビナーでは、主に芸術監督・社会彫刻家の青木竜太氏による「SF漫画デザインリサーチ」の手法を紐解きます。ゲストに一般社団法人MANGA総合研究所 副所長/一般社団法人マンガナイト代表理事の山内康裕氏をまじえ、どのようにSF漫画を活用して量子コンピュータの未来を描き出すのか、その取り組みと、漫画の有用性が紹介されました。

SF漫画が伝える、未来の地図の描き方

芸術監督・社会彫刻家である青木竜太氏は、芸術と科学技術の中間領域で、インスタレーション作品の制作や研究開発、カンファレンスや展覧会の企画・指揮を行いながら、「ありうる社会」の探求をテーマに多様なプロジェクトを展開しています。青木氏が量子コンピュータにおける「SF漫画デザインリサーチ」で目指すのは、アートを用いて社会そのものをリデザインする「創造的介入」です。

 

「SF漫画デザインリサーチは2019年に開発した手法であり、ワークショップ形式で未来予測を行うものです。漫画から物理現象や社会システム、社会通念や倫理観などを抽出・分析し、現実との対応関係を探ります。参加者は多様な視点を持ち寄り、課題やアイデアを多様なレイヤーごとに整理したうえで、新たな発想や研究テーマを導きます。過去には、このリサーチ手法を用いて導き出された研究テーマで、企業との共同研究を長期間実施することなった実績もあります」(青木)。

 

今回はQ-STARで未来の量子技術を開発する企業の担当者らを集めて開催され、思考実験を通して量子コンピュータのユースケースを抽出し、アート作品として可視化します。例えば、量子通信が普及した未来のプライバシー概念、量子センシングが拡張した身体感覚、量子コンピュータによる経済予測が導く政治制度の変容など、多様なスケールでのシナリオ設計が進められました。

 

「ひとつの技術が生まれるとき、その技術が生む制度や倫理の変化、文化的な影響も連動して立ち上がってくる。私たちはその全体像を描くために、SF漫画を活用しているのです」(青木)。

 

「ジャーナリズムによるリサーチを、Q-STARに教育として提供しました。量子技術に関連した研究者や投資家、起業家へのインタビューを行い、それらをQ-STARのメンバーへ提供することで、コミュニティ自体を高度なナレッジグループへと進化させるのです」(森)。

 

このようにジャーナリズムと、想像力によって未来の姿を物語として描く表現(=アート)を組み合わせることで、リアリティと創造性を両立した未来像を構築しているのです。そのユースケース作成におけるアイデアの触媒として用いられるのが、SF漫画なのです。

未来を「共有可能なもの」にするメディア

2020年に一般社団法人漫画ナイトを設立し、「漫画と学び」の普及を掲げた展示事業や拠点運営などを展開してきた山内康裕氏は、漫画がもつ社会的機能について語りました。山内氏は、「漫画は社会と密接に関わるメディア」と述べ、テクノロジーが社会に及ぼす影響を理解・共感するための手段としての力を強調しました。

 

「漫画というメディアでは、作家ひとり、または作家と編集者のふたりがいれば制作が可能なため、非常に多くの作品が生み出されています。そして、膨大な作品群の中でヒット作となるのは、往々にして当時の社会情勢や、人々が抱える不安、関心といった時代の空気を的確に捉え、共感を呼び起こすものです。共感された作品が読み継がれ、評価され、結果としてヒットしていくという流れがあるのです」(山内)。 

 

「漫画は映像作品とは異なり、紙面の特定シーンを指し示すだけで参加者同士が同じイメージを共有できる利点があります。文章中心の小説より想像誤差を少なくおさえられ、視覚情報が豊富で、想像を具体化しやすい点も大きいです」と、青木氏も、漫画がもつ共有のしやすさと創造性の可能性について話します。「日本のSF漫画には、作家たちが積み重ねてきた創造の地層があり、未発掘のアイデアが数多く眠っています。母語である日本語で描かれた豊かな表現に身近に触れられる環境は、極めて価値ある文化的資産です」(青木)。

社会設計のシミュレーション装置としての漫画

山内氏は、漫画というメディアが人間を描くものであることを強調し、それがサイエンスやテクノロジーの社会実装に役立つ可能性について話しました。「プロの漫画家は、まったく新しい世界観をゼロから想像し、その中に人間や人間以外の存在が『生きている』ことを重視して描いていきます。これは、単なる空想ではなく、社会実装の観点からも非常に意味のあることだと思います。つまりそこにちゃんと人間が生きている、共感できる未来をつくるためのヒントになる可能性があるのです」(山内)。

 

最先端のサイエンスやテクノロジーをいかにして人間社会になじませるか。これは多くの企業やアカデミアの研究者が直面してきた問いです。漫画家は、違った立場からこの問いに立ち向かってきたのです。そうして生み出された膨大なSF漫画は、いわばサイエンス・テクノロジーの社会実装におけるシミュレーション装置として活用できるのです。「かつて描かれた漫画の未来像は、現実の技術開発に影響を与えてきました。そして、今描かれる漫画もまた、未来の社会実装に対して、重要な視点を提供するかもしれません」(山内)。

 

私たちは、未来を“描く”ことで、それに責任を持ち始めることができるのかもしれません。そしてSF漫画は、単なる美的体験や娯楽にとどまらず、未来の可能性を探索し、社会全体で共有するための重要なシミュレーション装置なのです。

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山内康裕|Yasuhiro Yamauchi

一般社団法人MANGA総合研究所 ` 副所長(理事)

1979年生まれ。法政大学イノベーションマネジメント研究科修了(MBA in accounting)。2009年に「マンガナイト」を結成し、2020年に一般社団法人化。「マンガと学び」の普及や展示事業を展開。レインボーバード合同会社代表、さいとう・たかを劇画文化財団代表理事などを務める。共著に『『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方』(集英社)、『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊』(文藝春秋)など。

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青木竜太|Ryuta Aoki

芸術監督、社会彫刻家

芸術と科学技術の中間領域で作品制作をしながら、研究開発や展覧会などの企画・設計・指揮を行う。主な展示に「北九州未来創造芸術祭」、「千の葉の芸術祭」、「DESIGNART」がある。「生態系へのジャックイン展」では芸術監督として活動。第25回文化庁メディア芸術祭でアート部門ソーシャル・インパクト賞を日本人グループとして初受賞。 https://www.instagram.com/ryuta_aoki_/ `

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森 旭彦|Akihico Mori

サイエンスライター

サイエンスと人間性の相互作用や衝突に関する社会評論をWIRED日本版などに寄稿。ロンドン芸術大学大学院にてメディアコミュニケーション(修士)を学ぶ。大学院在学中に BBCのジャーナリストらを取材したプロジェクト『COVID-19 インフォデミックにおけるサイエンスジャーナリズム、その課題と進化』が国内外のメディアで取り上げられる。 https://www.morry.mobi/ ​`

量子芸術祭 Quantum Art Festival​

主催:量子芸術祭実行委員会 

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