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WEBINAR 2

未来のゲームはどう変わっていくのか:

量子と空間をイメージする50分

テクノロジーの進化によってゲームの世界の表現も大きな変化に見舞われている。最先端のクリエイティブで何が起こっているのか、私たちのゲーム体験はこれからどのように進化していくのか。さらに量子コンピューターと結びつくことでどのような体験が可能になるのか。このウェビナーでは、「未来のゲームはどう変わっていくのか」をテーマに株式会社HIKKY PRチームリーダー デジタルハリウッド大学院教授 新清士氏、エンハンス代表・シナスタジアラボ主宰 水口哲也氏、日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ 主管研究長 兼 日立京大ラボ長 水野弘之氏に語っていただいた。ファシリテーターはクリエイティブディレクター・デザイナー 藤原大が務めた。

12月21日(水)に開催したウィビナーを再構成し掲載しています。

新しい銀河系が誕生した

新:

画像生成AIの登場は、コンテンツ作りをはじめとするあらゆるところに、とてつもない変化を引き起こそうとしています。絵画しかなかったところに写真が登場したくらいのインパクトがある変化です。

 

まずは、2022年7月にアメリカ企業の独立研究機関「Midjourney」から、入力したテキストに合わせた画像が自動生成されて出てくるというサービスが登場しました。その後、2022年8月にスタートアップ企業のStability AIが同じような仕組みの画像生成AI「Stable Diffusion」をリリースしましたが、これがとんでもないものだった。データ自体が10億個のパラメータ、さらにインターネット上からサルベージした50億枚の画像とそのテキストのペアを持っているという、とてつもない情報量の画像生成AIです。

 

これがネット上で、オープンソースとして公開されたことによって、現在、爆発的なイノベーションが起きています。ソースコードが公開されたので、使用するためのツールも各種でており、たとえばもっとも多くのユーザーが利用していると考えられるAUTOMATIC1111さんがリリースしている「Stable Diffusion WebUI」はローカルなパソコン環境で「Stable Diffusion」を動かせるというものです。

 

さらに、2022年10月3日には「Stable Diffusion」の仕組みを使ってアニメーション向けにデータ学習させたシステムである「Novel AI」が登場しました。月間25ドルのサブスクリプションでクラウド上での画像生成が使い放題になるというもので、たとえば「初音ミク」と入力すると初音ミクのバリエーションが無限に出てきます。Stable Diffusionにアニメやイラストの数百万枚の画像を追加で学習しており、非常にアニメ的な画像に強いということで、とてつもない衝撃でした。このサービスがなんと10月6日にサーバがハッキングを受け、データ流出が起きるという事態が起きたのです。そのデータは、中国のユーザーを中心に解析が行われました。それによって、さすがにオープンソースでは公開されていなかったデータセットの作り方やコツ、いわゆる企業秘密のようなものまでが情報共有され、次々と新しい手法が発見され、まるで毎日のようにイノベーションが起きている状況です。

 

現在では相当複雑なイラストも制作可能になりました。昔の芸術のような絵画も作れますし、キャラクターアートや設定資料、メカっぽいものまでテキストを放り込めばなんでも作ってくれます。従来では発注して1週間〜2週間は製作時間が必要で、1枚あたり10万円ほど発生するようなイラストを1枚10秒程度で大量に作れるわけですから、これは革命的な変化です。最近では、それらのAI画像を投稿して見せ合うことができる専門サイトも次々登場しています。

さまざまな拡張データセットがユーザーにより開発されているのですが、たとえば「ジブリデフュージョン」というものがあり、ジブリのアニメっぽい画像が生成されます。おそらくスタジオジブリの映画のスクリーンショットを大量に撮って、それをAIに学習させて作ったものだと思います。こうしたものは著作権に関連した大問題になっています。基本的には、現在の日本の著作権法では、データ学習をさせるためには、著作権者の許可を得なくてもよいとされており、アメリカでもフェアユースの概念で合法ということになっているのですが、ここまで急速に技術進歩が進むとは想定されていなかったと思います。

 

こういった画像生成AIでは、何億枚という画像データを学習させて、一つの大きなデータセットの塊を作ります。銀河系を1個作るようなものです。ただし、静的な銀河系ですね。その銀河系は、基本的には数ギガバイトのデータで、特徴点と呼ばれるベクトル情報の塊で構成されています。

 

一度作ったデータセットは、データを追加するなど、部分的にデータそのものを変化させることはできますが、変化を意図的にさせない限りは、その特徴は変化しません。しかし、その特徴は実際に何度も観察してみないとわかりません。どういうことかというと、ユーザーは「プロンプト」というテキストをデータセットに向けて放り込むことによって、戻ってくるデータを観測するわけです。テキストを放り込んで出てきた画像を見ることでしか、この銀河がどんな特性を持っているものなのかがわからないということです。

 

つまり量子力学的な何かのデータを観測者が打ち込み、宇宙からの反応によってその観測点が決定されるという世界なのです。

 

市場的にも大きなインパクトが出ています。GitHubで公開されているデータでは、「Stable Diffusion」はリリース後90日をたたないうちに、SNSで3万いいねを超えています。ビットコインが3万いいねを超えるのに5、6年近くかかったことを考えると、ものすごい勢いで普及しているのがわかるのではないでしょうか。

自動生成AIによる影響が一番出るのが、リアルタイムかつ複雑性を持っているゲームの分野になると予測されています。音楽、モーション3D、アニメーションモデル全てのものに対して活用可能だとみなされています。

 

最後に僕自身がやったことを少しお話しします。Stable Diffusionの拡張機能を追加することによって、最初に作り出した画像の深度データを作ることができるようになりました。深度データとは元情報から奥行き情報を生み出して、前にあるものを白く、後ろにあるものを黒く色塗りするものです。AI技術の一つなのですが、これを活用し、3Dに入れ込むと立体に見えるデータを作ることができます。単に2次元の絵であっても、AIを利用することで、立体情報としての価値を持たせることができるということです。

新:

こうしたものが普通のゲームに降りてくるのも時間の問題です。私はこうしたゲームに関わるアートに触れることで、量子的なところが実行段階まで入ってきていることを実感しています。

ゲームと量子の共通性

水口:

世の中に初めてリリースされた商業的ゲームが1962年の『Spacewar!』。当時MITの学生だったスティーブ・ラッセルさんとその仲間たちが作りました。

 

このゲームのディスプレイは四角ではなく円形です。中の映像が緑のドットでできています。ベクタースキャンと呼ばれる表示方法でゲームが生まれてから60年間、ゲームの映像はドットから始まったんですよね。

 

基本的にはそのドットに色をつけて、その色の集合体が集まったときに2Dのペイントのグラフィックをリアルタイムでアニメーションにしたり、インタラクションをさせるという表示方法が長い間使われてきました。その次に3DのCGが用いられ、解像度がどんどん上がっていったわけです。そして現在はVRという段階まできています。

 

僕はこの業界に入って32年くらい経ちますが、2001年に『Rez』というゲームを作りました。オーディオ、ビジュアルと触覚振動が融合していく体験を、サイバースペースの中で体験するゲームです。それをVR化した『Rez Infinite』をVR元年といわれた2016年に出しました。

水口:

グラフィックで見るとゲームの世界でも非常に量子的な表現が可能になりつつあります。従来のゲームは音楽を背景に流すような感じで使っていましたが、テクノロジーの進化によって使い方にも変化が現れました。音をいろんなレイヤーやパーツに細かく分けて、それをインタラクティブな体験としてアクションに紐づけられるようになった。これはコンピュータの性能が上がったからできるわけで、いわば体験自体が非常に量子化しているといえます。

 

僕が今言った量子がどういう意味かというと、いろんなものの粒度を上げていく、バラバラにしていくということです。バラバラにするとそれぞれ制御ができるわけですね。制御の数は当然増えるので、コンピュータの性能が上がらないと同時に多くのことを制御したり管理できないんですけど。

 

ハプティック(触覚)も、昔はただブルブル震えるだけの反応だったものが、音と同じような微細なテクスチャーを持った状態でコントローラーから伝わってくることが普通になってきています。

 

2018年にリリースされた『TETRIS EFFECT』は、テトリスのルールを変えずに人が感動するようなコンテクストに変えられないかというテーマで生まれました。音楽とビジュアルの力を徹底的に使うんですけど。一つ一つのアクションに対して音とビジュアルが一緒になったかのような表現をします。昔だとデザインできなかった表現や体験ができるようになってきた。当然、ゲーム機のコンピュータの性能は、極限まで使い切ります。

水口:

昔ながらのグラフィックや音のクオリティを上げるといった捉え方だと、もうこれ以上の性能はいらないのでは、という考え方もあります。しかし、体験を作る側から言うと全然足りない。粒度というか、マルチレイヤーというのか、すごくたくさんのものを並列で処理するには、まだまだ性能の向上が必要なんです。

 

僕はゲーム以外だと共感覚にスポットを当てたチームの活動をしてまして、『シナスタジアX1』という椅子型のデバイスを開発しました。44個の振動素子がついており、座ると高解像度の触覚と音が連動して動きます。

水口:

音楽だけを聞くという従来の状態と比較して、「全身触覚」の状態で音楽を体験するとどうなるかという実験から始まったのですが、今まで到達できなかった深い感動に到達できるということがわかってきました。

水口:

最近は中村勇吾さんと一緒に『HUMANITY』というゲームを開発しています。もう5年ぐらい開発しているんですが、いよいよ2023年中には皆さんにお届けできるんじゃないかと思います。

 

最後に未来のゲームはどう変わっていくのかを、量子との共通性から考えてみます。

 

ちょっと禅問答みたいですが、量子とは波と粒子である、0でもあり1でもあるというのが非常に面白いなと思っていて。こじつけに聞こえるかもしれませんが、ゲームの体験もビジュアルでもあるしサウンドでもあるし触覚でもあるんですよね。ゲームの面白さに繋がるんですが、深い感動は単感覚で起こらないということが、これまでの研究を通じてわかってきています。要するに感覚が複合的に絡み合ってその感動のベースができる。ところが、ただ組み合わせればいいというものではなく、非常に複雑なプロセスやメカニズムが必要です。感覚も五感どころではなく内部感覚も含めれば40や50はありますから。

 

この内部感覚も含めて深いところを掘ってつなげていかないと本当に心の底から感動するものはなかなか作れません。私は「共感覚体験の解像度」という言い方をしていますけど、分解能が上がれば感動がもっと深まる可能性があるということです。この先、共感覚とXRが出会うことで新しい次元に入っていくだろうと思います。

 

ちなみにゲームの面白さ自体の設計のことをゲームデザインと呼ぶのですが、それ自体は劣化しないと思っています。つまり50年前の体験でも体験自体は面白い。ただ、現代はさまざまな表現の分解能が上がった状態でゲームデザインすることが可能になってくるのです。

 

コンピュータが進化して量子コンピュータが本当にできるようになったら、すごい感動が作れるだろうなという期待はあります。ゲームが空間に溶けていくような時代がやってくるでしょうし、その時代まで生きていたいなと思いますね。

量子コンピューターが生み出すコミュニケーションの変容

水野:

私の主な活動として量子コンピューターの研究開発に加えてAIの研究も行っています。最近のAIの進展に伴い、コンピューターに求められる要求性能が飛躍的に高くなってきています。たとえば先ほど新さんのお話にあった画像生成AIは、大量のデータを事前学習するために、ものすごい量の計算をしています。「GPT-3」という言語モデルは、まるで人間が書いたような文章をつくることができますが、その学習のために、世界ナンバーワンになっている日本のスーパーコンピューター「富岳」を9日間占有するぐらいの計算量がかかっています。

 

量子コンピュータはこれらの古典コンピューターとは全く違う原理で、無限の可能性の中から量子操作を繰り返すことで、欲しい結果が出る確率を増やしていくものです。これまでとは全く異なるパラダイムの計算ツールを手に入れようとしている点で、本当に楽しみな時代になってきていると思います。

 

自然のシミュレーションを突き詰めていくと、ミクロな部分で量子効果が関与している部分が多く、現在の古典コンピュータでは非常に難しい。しかし、量子コンピューターであればできるようになると期待されています。基本的にゲームはシミュレーションですよね。仮想的な空間が量子レベルで作れるようになったら、普段見ることのできないミクロな世界のシミュレーションの中に人間が入っていけるようなものも出てくるかもしれません。

 

また、量子コンピューターによってコミュニケーションの形も変わるかも知れません。古典コンピューターだと2名の間の通信はコピーによって伝達されていました。量子コンピューターはコピーではなくトランスポート、通信はできないけれど強い相関を持たせることができます。

 

人間におけるコミュニケーションは外から発せられたシグナルに対する意味づけでしかありません。相手が伝えたいと思っていることを、受け手側はそれを正確に受け止めているかどうかはわからないですよね。受け手側が勝手に「あの人はそういうこと言いたいんだろうな」と思っているだけです。結果として、人間はバイアスが大きい、しかし、事実には無いことを想像することができる。ITにはちょっと受け入れがたいようなこともできてしまうのが人間のコミュニケーションです。量子コンピューターでのコミュニケーションが強い相関(エンタングルメント)であるとすると、古典コンピューターや人間のコミュニケーションとは異なる、新しいコミュニケーションをゲームの中で創造できるかも知れません。

AIや量子コンピュータが拡大する人間の創造性

藤原:

水野さん、世の中に量子コンピューターという単語は浸透し始めていますが、実際どこまで開発は進んでいるんでしょうか。

 

水野:

すごく小さな規模の限定的なものはできています。ただそれによって生まれる効果がやはり限定的なものなので、科学者や開発者にはその価値が理解できても、一般の方が「これはすごい」と、直感的に理解できるものにはまだ達していないのかなと思います。

 

藤原:

水口さん、今後社会はゲームにどのような期待をしていく、もしくは社会がゲームをどのように取り込んでいくのでしょうか。

 

水口:

今までのゲームがなくなることはないと思います。ただ、現実世界と仮想世界を融合する「XR」の時代は少しずつ近づいているなと感じます。

 

現在は「デジタルツイン」などいろんな呼び方をされるXRですが、空間で動くものになってきたら、当然ゲーム体験は変わってくるでしょう。ゲームをテレビの四角い画面や、小さなスマホの画面でやっていたのが異常に思える時代は来るだろうなと思います。

 

あとはゲーム自体の役割もおそらく溶けていくと思います。ゲームがインタラクティブのエンタメとして、いろんなものに関わっていく可能性はあるのではないでしょうか。

 

藤原:

新さん、画像生成AIの著作権の問題についてはどのようにお考えでしょうか。

 

新:

著作権の問題は今まさにいろいろ課題が出てきているところです。まずはっきりさせておきたいのは、現時点でデータをインターネット上で収集して画像データを作るところまでは完全に合法です。日本の著作権法上でOKが出ています。

 

ただしそこから先、画像AIで生成されるものに関しての倫理的な問題が議論されています。収集しているデータに他人の著作権が含まれているものをリリースしていいのか。また、生み出されてくる画像がオリジナルの人に近かったときに、どこまでが許されるのか。このあたりはまだ答えが出ていません。YoutubeやMP3の初期と同じで、まだ裁判の判例が出たケースもないため、法的にグレーゾーンの状況です。一方で著作権の問題をあまり気にしない国もあるため、話が複雑になっています。

 

今から何年かかけて法制化が進むと思いますが、今現時点でこうなりますと言えない分野です。

 

藤原:

著作権に関しては非常に厄介な問題ではありますが、厄介だからこそそこを通り抜けていけば、また新しい景色が見えてくることだと思います。

 

新:

新しい景色というところでいうと、先ほど私が紹介した「Stable Diffusion」に音声をAIでくっつけて喋らせるというものもすでに生まれている。何もかもが変わろうとしている瞬間に私たちは生きていると感じています。

 

水口:

既存の作り手はどうなるんだという話も出てきますよね。

 

新:

そうですね。ただ、AIによって人間の仕事が減ったかというと減っていないんです。産業ロボットの研究があるのですが、ロボットの登場によって雇用は減少すると想像されていたのですが、生産性が向上し人間の仕事はむしろ増えているという結果が出ています。なので、テクノロジーによってクリエイティブな方法が変わると考えた方がいいと思います。

 

藤原:

そういうことですよね。量子コンピュータでさえできないことが人間社会では必ず浮かび上がってくるということを研究者の方からは伺っています。量子コンピューターによって我々人間がやらなければいけないことが逆に顕在化してくる。一体それはどんなことなのか、早く見てみたいです。

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水口 哲也
エンハンス代表・シナスタジアラボ主宰

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(Keio Media Design)特任教授。2001年、映像と音楽、そして振動を融合させたゲーム『Rez』を発表。その後、『Rez』のVR拡張版である『Rez Infinite』(2016)、テトリスの共感覚+VR拡張版『Tetris Effect』(2018)、共感覚体験装置『シナスタジアX1 – 2.44』(2019)等を発表。 米国The Game

Award 2017最優秀VR賞受賞(Rez Infinite)。

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水野 弘之
日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ
主管研究長 兼 日立京大ラボ長

1993年大阪大学大学院卒。同年日立製作所入社。2002年から2003年まで米国Stanford大客員研究員。低電力マイコン回路、CMOS Annealing Machine、Emotional Intelligence、Cyber Human Systemsなど研究牽引。2020年にムーンショット型研究開発事業にてシリコン量子コンピュータ研究開発のプログラムマネージャー就任。工学博士。米国電気電子学会(IEEE)フェロー。

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新 清士
株式会社HIKKY PRチームリーダー
デジタルハリウッド大学院教授

世界最大規模のメタバースイベント「バーチャルマーケット(Vket)」で知られるHIKKY所属。VRマルチプレイ剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発を主導。著書に2022年8月刊行の『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版新書)がある。ASCII.jpにて「新清士のメタバース・プレゼンス」を連載中。

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藤原 大
クリエイティブディレクター・デザイナー

2008年株式会社DAIFUJIWARAを設立し、湘南に事務所を構える。コーポレイト(企業)、アカデミック(教育)、リージョン(地域)の3つのエリアをフィールドに、多岐にわたる創作活動を続ける。独自の視点を生かし、企業のオープンイノベーションにおける牽引役としても知られている。国内外での講演やプロジェクトなど数多く実施。

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