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量子コンピュータの「宿題」
土屋 龍太
日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ

1つ目の宿題は計算の前に量子ビットの「初期化」。

2つ目は、狙った計算を再現できる「ユニバーサル操作」の実装。

3つ目は、量子ビットを操作した後の、正確な「読み出し」。

4つ目は、これら制御・操作を行う十分な間、量子力学的な状態「コヒーレンス性」を保つこと。

5つ目は、量子ビットを結合し、大規模化すること。 

そして6つ目は、量子コンピュータを使って、カーボンニュートラル社会の実現など、

人類の宿題をすることです。

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©︎ Ogawa Yutaro
量子コンピュータの条件

 なぜ量子コンピュータを開発しているのか? 研究をしているとよく聞かれます。私が答えとしているのは、「量子コンピュータは、人類に課された“ 宿題”をすることができるから」というものです。例えばカーボンニュートラル社会(※の実現は、人類に残された宿題です。実現のための技術として、二酸化炭素を直接空中から回収する技術「Direct Air Capture」が期待されています。Direct Air Captureには、性能の良い触媒電極材料が必要です。その探索に、量子コンピュータが使えるのではないかと考えられているのです。

 このように環境のシミュレーション、材料の探索、金融の予測、材料設計などさまざまな分野で大きな価値を生み出すだろうと考えられている量子コンピュータですが、その実現にはまだまだ多くの宿題が残されています。アメリカの理論物理学者であるデイヴィッド・ディヴィンチェンゾは、量子コンピュータに欠かせない5つの条件を提示しました。まさに量子コンピュータ実現のための宿題です。

 ひとつ目の宿題は「初期化」です。量子コンピュータで計算を行う前には、量子ビットを初期化する必要があります。そのためには量子ビットの状態を完全に制御できなければなりません。ふたつ目は、任意の演算を再現できる「ユニバーサル操作」が実装されていなければなりません。これはコンピュータに必要な汎用性の実現に関わるものです。3つ目は、量子ビットを操作した後で、どのような状態になっているかがわかる、正確な「読み出し」ができなければなりません。4つ目は、これらの制御・操作を行う十分な間、量子力学的な状態「コヒーレンス性」(※を保つことが求められます。特に量子ビットは外部からの干渉に弱いことから、コヒーレンス性の維持には課題があります。そしてこれら4つの宿題をクリアした上で、5つ目の宿題である「集積性」つまり良好な量子ビットを結合し、大規模化していくことが必要なのです。

2027年に実現するシリコン量子方式

 これらの条件をクリアしていけば量子コンピュータができ上がるわけですが、その方式は多様です。現在先行しているのは「超電導方式」です。極低温に冷却することで生まれる超電導状態を利用した電子回路で、量子ビットを実現する方法です。1999年にはじめて超電導量子ビットが発明されました。その後、その性能に度重なる改善が行われた結果、量子コンピュータに搭載される量子ビット数も増加してきました。しかし、実用的な量子コンピュータを実現するために必要とされる量子ビット数には、まだほど遠いというのが現状です。

 そこで日立製作所では、この方式に代わる「シリコン量子方式」を採用し、開発を進めています。シリコン量子方式は、非常に小さい量子ビットをつくることができます。さらに、比較的高温で動作できる可能性があることから、大規模化に有利だという特徴があります。しかし、シリコン方式の場合、量子ビットの操作手法の確立が課題です。近年の技術進歩により、数量子ビットを操作することは可能になってきました。今後は、この技術を高め、大規模量子ビットの操作手法を確立していく必要があります。ディヴィンチェンゾの5つ目の宿題である「集積性」を実現した上で、1~4の条件をクリアしていく。これが私たちに課された宿題です。

 現在はこの量子ビットの性能を高める“ 質”と集積度を上げる“ 量” の両面から、これらの宿題に取り組んでいます。目標としては、2027年ぐらいに実際に操作し、計算を行うことのできる量子コンピュータを実現することを掲げています。量子コンピュータの実現は、人類に残された宿題をする上で重要です。1日でも早い実現を目指したいと考えています。

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土屋 龍太
日立製作所 研究開発グルプ 基礎研究センタ

1998年東京工業大学総合理工学研究科博士課程修了(工学)。同年日立製作所中央研究所入社。2013年~2016年日立ケンブリッジ研究所副ラボ長。2020年よりムーンショット型研究開発事業「大規模集積シリコン量子コンピュータの研究開発」に参加。

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小川雄太郎
メインビジュアル​ ストレーション

イラストレーター。多摩美術大学大学院グラフィックデザイン研究領域修了。

ウェブ、広告、雑誌、映像などのイラストレーションを手がける。

主な仕事にWIRED、リンネル、NHK Eテレ、PARCO、キットカットなど。

主な受賞にNY ADC Merit、グッドデザイン賞など。

ギンザWEBにて動く漫画「トップスドッグズ」連載中。

www.ogawayutaro.com

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