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2022年にスタートした量子芸術祭も今年3回目となりました。
初日は、本芸術祭の目的、量子コンピュータ研究が抱える課題、アートとサイエンスをつなぐ活動の意味につ いてご紹介します。
ランチタイムに聞く量子芸術祭3/4
オープニングプログラム
水野弘之(日立製作所 基礎研究センタ主管研究長 兼 日立京大ラボ長)×青木竜太(芸術監督・社会彫刻家)×
藤原 大(量子芸術祭総合監督)
進行:太田美紀(株式会社アクシス)
DATE | 2025.3.10 MON. | 12:00-13:00 JST
イントロダクション
太田:「量子芸術祭」は今回、3回目、オンライン・トークセッション形式による開催となります。9つのプログラムは初心者から専門家まで幅広い層が参加できる内容です。
量子芸術祭の目的について
藤原:量子芸術祭は、「みんなが集まる場の提供」をテーマに、量子コンピュータの社会的活用を考えるためのプラットフォームであり、芸術を通じて未来を想像する場として機能させることを意図しています。
社会課題の解決と多元的な未来像へアートを通じてジャンプすること。また、量子コンピュータを動かす技術の体感を、アートを通じて若年層への理解を促進すること。さらに量子コンピュータの現状と未来を正しく理解し、新たな創造の理解を深めることです。
量子技術は難解と捉えられがちですが、芸術を介することで視覚的・感覚的に理解しやすいかたちに変え、より多くの人がアクセスしやすいものにすることを狙いとしています。研究者や企業関係者だけでなく、高校生をはじめ、一般の人々にご参加いただけたらと考えます。
量子コンピュータ開発とは? 量子芸術祭に込めた思い
水野:量子コンピュータの研究開発は世界中で進められており、日本においても多くの研究者によって進められています。われわれ日立製作所は「内閣府・ムーンショット目標6」に参加し、量子コンピュータの実現を目指していますが、ムーンショット目標6の目標が2050年であることからわかるように、一般の方が量子コンピュータを使えるようになるのはまだ先のことです。
なぜ量子芸術祭なのかと言いますと、このように時間がかかる量子コンピュータの研究開発について、一般の方々に正しく理解いただきサポートしていただきたいからです。特に量子コンピュータで可能になるアプリケーションや普及した際の世界を、より多くの方に、正しく、適切に理解いただきたいと思っています。それほど世の中には誇大広告が多いのです。
まだ実現できていないものに対して、できたときにどんな世界が生まれるかを想像することはとても難しいことです。現在100社以上の企業が参加するQ-STARという協議会では、量子コンピュータが完成したときに生み出される産業を盛り上げていくための施策を幾つか進めています。その中でもこの難しい問題に取り組んでいます。
そういう状況のなかで、全く別のアプローチをとれないかと考えて進めているのが量子芸術祭です。量子芸術祭では、アーティストの方々にご協力をいただいています。アーティストはわれわれ一般人の思考の外部にある何か=新しいアイデアを表現する力がある方々だと思っています。その方々の力を借りてこの難しいことにチャレンジする、それが量子芸術祭です。
アートとサイエンスの関係について
青木:アートはなんの役に立つのか?という話があります。1969年の米物理学会で小説家のカート・ヴォネガットは「炭鉱のカナリア芸術論」について講演しました。それは、アーティストは「社会の超高感度センサー」として、社会の動きをいち早く感知し、誰よりも早く人々に伝える役割があるというものです。
アート&サイエンスのの代表例としては、欧州原子核研究機構(CERN)で行われている「Arts at CERN」という活動があります。アーティスト向けに滞在制作プログラムや委託作品制作など実施していて、10年ほど前からすでに200名以上のアーティストとコラボレーションしています。CERNの研究者たちはアーティストと協働することで、「自分がなぜこの研究をしているのか根本的な問いを思い出させてくれる」と述べています。アートとサイエンスが交わる領域の真の価値は、作品制作だけが目的ではなく、作品をつくる過程でさまざまな人と対話し、問いを生み出し、価値や問題を深めていき、相互理解を促進することだと考えています。また作品を展示し多くの人達との対話を喚起することにより、共通の問いや共通言語が生み出し、社会受容醸成を促進することにつながるのです。
アート&サイエンスは、眼の前の仕事に没頭し籠りがちな研究開発を社会に開く、広義の研究的行為とも位置づけられるのだと思います。
今後のプログラムについて
藤原:量子技術の産業応用、芸術表現、哲学的考察など、多角的な視点から量子芸術を深掘りするセッションを予定しています。1週間を通じてさまざまな分野の専門家が登場し、未来の可能性を議論していきます。国際的なアーティストや専門家も参加し、グローバルな視点で議論を展開します。「量子×アート」というテーマを通じて、新しい社会のあり方を考える場にできると良いと思っています。

水野弘之|Hiroyuki Mizuno
日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ
主管研究長 兼 日立京大ラボ長
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1993年に日立に入社しマイコンなどの集積回路の研究開発に従事。2002年~2003年に米スタンフォード大客員研究員。2015年に量子インスパイア技術「CMOS Annealing」を発表し、2020年にムーンショット型研究開発事業にてシリコン量子コンピュータ研究 ` のプログラムマネージャー就任。日立京大ラボ ` では新価値やAIの社会実装の研究を哲学者らとともに推進。工学博士。米国電気電子学会(IEEE)フェロー。

青木竜太|Ryuta Aoki
芸術監督、社会彫刻家
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芸術と科学技術の中間領域で作品制作をしながら、研究開発や展覧会などの企画・設計・指揮を行う。主な展示に「北九州未来創造芸術祭」、「千の葉の芸術祭」、「DESIGNART」がある。「生態系へのジャックイン展」では芸術監督として活動。第25回文化庁メディア芸術祭でアート部門ソーシャル・インパクト賞を日本人グループとして初受賞。 https://www.instagram.com/ryuta_aoki_/ `

藤原 大|Dai Fujiwara
クリエイティブディレクター
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2008年DAIFUJIWARAを設立し、湘南に事務所を構える。コーポレイト(企業)、アカデミック(教育)、リージョン(地域)の3つのエリアをフィールドに、多岐にわたる創作活動を続ける。独自の視点を生かし、企業のオープンイノベーションにおける牽引役としても知られている。国内外での講演やプロジェクトなど数多く実施。多摩美術大学教授。 https://www.daiand.com/ `